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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十話〜第二十二話

【第二十話「誓言」】
冒頭の「また、お会いしましょう。次の世で」という誰か(=紗柄の前世の巫女が正解)の誓いと、紗柄が妖王に「貴様とは関わらない」と宣言している二つを表したサブタイトルです。

 

・冒頭の誰かの誓い
「偽王」を読んでくださってる方で、「三十二.償い【1】」の冒頭の文章を思い出してくださった方がもしいたら、神のように崇めます…(いらっしゃらないですよね)
これは紗柄の前世(正確には前世の前世)の巫女の心の声を表しています。
この記憶を、紗柄はだんだん思い出していくのです。自分はかつて、誰を守りたかったのか。

 

・妖王がやりたかったこと
おおむね、この回で紗柄が見抜いている通りです。
妖王はもともとは前・天帝の息子で神様だったのですが、継母(天帝の正妻)に嫌われて神格を奪われ、異形の姿にされて下界に落とされました。
人にも魔族にもなれないので、寂しすぎて自分と同じような存在を増やすために、いろんな人や魔族に子を産ませて「妖」という種族が生まれました。
それでも虚しさは消えなくて、人は人でも人とは違う「神巫女」たちに目を付けます。
紗柄や霞乃江の前世(500年前の、二人目の巫女)の頃から干渉し始め、紗柄と霞乃江の時には二人が幼いころから近付き、弄びます。
紗柄はまだ幼く準備もできていないのに開光させられて「鬼」になりかけますし、霞乃江も御覧の通りです。
そうやって、自分と同じような中途半端な存在を作り出し、仲間意識を持ちたかったんですね。

 

また、妖王は紗柄に自分を憎ませて戦うよう仕向けて、戦いそのものを楽しもうとしていた面もあります。
兄である天帝(聖龍)の意に背くことをして、気を引きたかった面もあります。この先のネタバレですが、妖王が今回やろうとしていることは、黒神の意にも反していますので、彼を怒らせようとしたという理由もあります。
兄二人の怒りを買い、鉄槌をくらうことになろうが、それならそれでよかったといいますか。かまってちゃんですね。

 

この回での妖王はなんだかイライラしていますが、それは雪のせいです。雪という存在が現れ、せっかく鬼にした紗柄が人に戻ってしまったので、興ざめしていたのです。
親兄弟を殺すよう仕向けたのが自分、というのを告げるのは、紗柄の目を雪から自分に向けさせるという点で、妖王にとっては最後の切り札でした。
この頃にはなんでもありで、霞乃江に手を貸して雪をさらったのにもかかわらず、「自分と戦って勝ったら雪を助けてやる」とまで言ってます。彼には信念も何も無いのです。ただ紗柄に構ってほしいだけ。

 

紗柄はそんな妖王の内面を見抜き、「私はおまえにかかわらない」と跳ね付けているのです。
幼いころからあれだけ自分を憎むよう仕向けたというのに、また無視されてしまいました。
「そうか」と言ってあっさり引いたとみせかけて、がまんならなくなった妖王は爆弾を投入します。霞乃江の「黒の気」を感じ始めて前世を思い出しつつあった紗柄に、「本当に守りたいのは誰か?」という言葉を投げかけます。
これをきっかけに、紗柄は前世の自分をほぼ完全に思い出してしまうのです。
ここから紗柄は、前世の誓いを守るか、雪を守るか、という選択で揺れ始めます。

 

 

 

【第二十一話「偽物」】
冒頭の文は、紗柄の深層心理です。

 

あと最後の霞乃江のセリフ「会いたかったぞ」は、瑠璃が琅華山で気絶している麗蘭と再会した時のセリフと同じなのですが、気付いた方いらっしゃいますかね?
もしいらしたら感謝しまくりです。

 

・雪のすごさ
妖王の部下にさらわれ、霞乃江の元まで連れてこられた雪。
男を誘惑することにかけては無双の霞乃江が、雪を引き入れようと惑わします。ところが雪には効果がないどころか、敵意を抱かれます。

 

本文中でも説明していますが、霞乃江の誘惑術は完全無欠ではありません。効果があるのは「酷く傷ついた」相手です。雪の場合、傷ついてはいるのですが、正義感や憎しみの方が強く、哀しみを上回っていた。だから屈しなかったのです。
霞乃江が氷姫と火澄の髑髏を見せつけたのも、雪を傷つけて精神ダメージを食らわせ、誘惑しようとした理由からです。火澄の例がある通り、哀しみ>憎しみなら憎しみの発端が自分であっても、自分の虜にすることができますし。

 

ですが、雪は怯むどころか怒りを強めました。雪は気弱に見えて、実は誰よりも気性が激しい面を内に秘めている。だから火澄や紗柄に逃げてと言われても逃げずにここまで来たし、地影の人柱となるに足る「王に伍する徳」を有すると見なされていました。
実は、雪はすごいんです。本作ラストでも、そのすごさがわかるエピソードを書いていたりします。
(あと、雪が童貞だからという理由もあります。女性の身体を知らないことが武器になったというか)

 

ちなみに、「金色の螺旋」で瑠璃が誘惑しようとしてできなかったのは青竜と燈雅でした(緑鷹は誘惑されてます)。雪の徳はあの二人と同レベル、もしくはそれ以上といっても過言ではありません。霞乃江の方が誘惑術に長けてますので。

 

・霞乃江の動機
このセリフに、集約されてたりします。

 

「此の王子が死ねば、あの女はどれ程嘆くだろうか。悲しみの余り気が狂れるだろうか。或いは今生を悲観し、凡て思い出すであろうか――わたしのように」

 

霞乃江は自分の人生を悲観しています。だから黒神を狂信的に求めてしまう。自分もそうなので、紗柄もそうなるだろうと思い込んでいます。
この部分が、ラストにかけて重要になってきます。

 

 

 

【第二十二話「心戦」】
冒頭の文、「荒国に蘭」の「第二章 一.初めての友」の冒頭を意識したのですが、似てる感じだ〜と気づかれた方いますか? これはいらっしゃらないですよね…

 

・霞乃江→紗柄の心理攻撃
「結局おまえは光龍なんだ」と。前世のしがらみからは逃れられないんだ、と。これは、この後の伏線でもあります。霞乃江が切り札を使うための準備なのです。
ただこの時点では、紗柄は全くといっていい程こたえていませんね。

 

・紗柄、昔の記憶に翻弄される。
重要なのがこの場面です。

 

――「彼の方」が、左様なことを望む訳が無い。
 思わず右手で額を押さえ、霞乃江から目を逸らした。錯綜する記憶に戸惑い、敵を前に迷いを隠せなく為っていた。

 

「彼の方」とは、黒神のことですね。
今作では黒神が封じられて不在ということもあって、紗柄が彼を毛嫌いしているシーンはないのですが、悪い奴だとは思っています。この世界の人々にとって、「黒神=悪」は絶対的な方程式だからです。
にも拘わらず、「左様な(酷い)ことを(黒神が)望む訳が無い」と言っています。これは、前世の記憶のなせる業に他なりません。
それで紗柄は戸惑っているのです。
 

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