雑記や創作状況など。
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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第三十話(最終話)

【第三十話「雪吹」】

エピローグです。

サブタイトルは雪くんの本名。雪というかわいい名で呼ばれていましたが、本当の名は雪吹(いぶき)というかっこいい名前でした。

名前自体は一番初めから決めていて、最後でようやく出せました。

大切なものをいっぺんに喪って、雪から雪吹に進化した、というのを見せたかったのです。

 

■麗蘭へ繋がっていく

珪楽の上宮、神剣天陽を安置してある場所が出てきます。

巫覡の依水は、天陽と紗柄の魂が宿っている真十鏡を相手にずっと話しています。

 

この真十鏡は、「金色の螺旋」第7章で出てきた天真が持っていたものです。

光龍の魂は、この鏡を依代として、次の転生まで眠っています。

天陽が刺さっている台座も、金色で出てきたものそのままです。

 

五百年後、紗柄の魂は麗蘭として転生し、麗蘭がこの地に戻ってくる…という繋がりを書きたかったのです。

依水も、まさか五百年後には天真と魅那の姉弟二人しか生き残っていないなんて、思ってもみなかっただろうなあ…

 

■天陽を取り戻した依水

依水は妖王に仲間や恋人、天陽を奪われました。これは珪楽の民として、死ぬより辛いことでした。

作中はっきりとは書いてませんが、妖王が天陽を依水に返したのは、自分の蛮行を省みて、珪楽の民に謝りたいという意思表示でもありましたし、紗柄の魂の安寧のためという理由もありました。

 

■地影が砕けたのはなぜか

地影が砕け散ったのは、作者としては、黒神がそうしたのだと思っています。

寂しさのあまり闇龍が暴走し、妖王が悪ノリしたせいで、たくさんの罪のない人々が地影によって殺されました。その悲劇が二度と起こらないために、黒神が砕いたのだと。

 

■黒神はなぜ、出てこないのか

妖王によって、「地影で人をたくさん斬って力を高めた霞乃江が、黒神に呼び掛けて目覚めさせる」とう方法が嘘だったと明かされます。妖王にすら封印の解除方法はわからないのですが、「人界を乱して、神巫女を争わせる」ことで、慈悲深い黒神が見かねて姿を現す、という方法を考えていたようです。

作中ある通り、黒神は彼を封印している天帝や薺明神よりも強く、その気になれば出られるのだと思われます。そのため、紗柄や霞乃江が苦しんでいるのを見たら、以前の黒神だったら見かねてでてくるはず。妖王はそう推測していたのですが、結局出てこなかった。そこで、黒神はやっぱり変わってしまった(巫女たちや人界をないがしろにするようになった)と判断するわけです。

……実際、黒神は、二十九話で霞乃江の前だけに姿を現しました。力を使って、炬の声を出させるという業も行っています。その時に霞乃江に言っている通り、彼女が死ぬまで「(霞乃江の呼び掛けに)応えられなかった」のです。

 

■毒気の抜けた妖王

「金色の螺旋」に出て来る妖王は、今作の彼と大分違っています。

二十話で紗柄に突き放された彼は、その後紗柄や霞乃江の最期を見て、心を入れ替えたのです。

紗柄を一人の人間として敬愛し、彼女が守ろうとした雪を最後まで守ってやります。

金色では、人間を弄んだりするのは「かつて興じたこともあったが、今はそうでもない」と言っています。丸くなったんですね。

 

■雪の一生

目の前で紗柄を殺され、霞乃江に復讐した雪は、一度壊れます。

三日間穴を掘り続けて紗柄たちの遺体を葬り、巫覡たちが目を離した隙に凛鳴と天陽を持って消えてしまいます。

妖王に連れられ、彼の庇護下で王都に戻り、王になるための画策を始めます。

その時、魏州侯(火澄に「氷姫が霞乃江に殺されたこと」を教えて、死に至らしめるきっかけを作った若者)が王になろうとしていました。もともと魏州侯は、打倒晟凱という名目で兵を挙げていたのですが、霞乃江に誘惑されていました。霞乃江は晟凱を殺した後のことも考えており、魏州候を王にしてそのまま操ろうとしていたみたいです。

霞乃江が死んでしまったので、単に王を目指した魏州侯ですが、思わぬ正統な王子の出現に困惑し、勢力争いで負けてしまいます。

 

雪は、能ある鷹は爪を隠すタイプで、王の器を隠していたのです。

紗柄が助けてくれた命、何があっても生き残るため、自分の父の血を絶やさないため、強くなろうと決意し、極端な方向に人が変わってしまいました。政略結婚で妻も娶り子も作りましたが、誰も信じないし、愛さない。それだけ生き抜くのに必死だったんです。

妖王に守られており、命を狙われても妖が敵を殺してくれました。

 

父や姉、兄弟たちの仇を取り、王にはなれましたが、彼は余り幸せではなかったと思います。紗柄の残した凛鳴のみが、心の支えでした。

もともと体が弱いので、三十代で病死します。

 

以上で完結です。お付き合いありがとうございました(*´ω`*)

 

 

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十八話〜第二十九話

【第二十八話「選択」】

結構怒涛の展開で、何が起きたかわからない方もいたかもしれません。

紗柄は地影を手放し、雪を守ると決めました。霞乃江は素でびっくりしています。紗柄は黒神と会いたいために、雪を手に掛けると本気で思っていたのです。

 

それは、霞乃江が紗柄と自分は同じだと思っていたから。

霞乃江は今の生に絶望していて、自分の人生を切り開くには黒神に会うしかないと思い込んでいました。

紗柄は、つらいことがたくさんありましたが、雪や氷姫のおかげで今の生に希望を見出していました。

 

この差が歴然で、紗柄は黒神に再会しなければならないという、前世の記憶を思い出していながら、雪を選びます。

紗柄が雪を選ぶのは客観的にみて当然だと思うのですが、その当然が、霞乃江には理解不能なのです。

しかし、紗柄が言った「あの方は、こんなことを望まない」というセリフにはすぐ同意しました。

黒神がどんな男だったかを思い出しているがゆえに、妖王にすすめられるがままにやっている残虐行為は、黒神の意図に沿わないものとわかっている。わかっていても止められなかったのです。何としてでも会いたかったから。

 

雪が目覚めた後、死んだはずの炬が実は生きていて、再び紗柄を狙います。

炬は愛する霞乃江の幸せのために、どうしても紗柄を殺したかった。そのためだけに執念で生きていたのです。

不意打ちで反応が遅れた紗柄は、手放した剣を呼び戻して受け太刀する時間はないと判断。炬の剣を避けず、自分を貫かせて炬の動きを封じ、天陽で炬を刺します。

黒の力で生きながらえていた炬にとどめを刺すには、紗柄が自分の力で浄化するしかありません。そこで大部分の力を失い、自分の治癒に回せなくなります。

 

息を引き取る際、紗柄は雪を選んでよかったと安堵して旅立ちます。

 

一方霞乃江の方は、最後に奇跡が起きて、炬の声帯が復活して彼の真意を聞くことができます。

実際、炬は霞乃江に対して相当愛情表現していたはず(というか、奴隷なのでなんでも言いなりですし)ですが、霞乃江は炬に愛されていると信じませんでした。

霞乃江もつらいことがありすぎて、誰も好きになってくれないと思い込んでいましたし、自分で愛されないように仕向けていた部分もありました。炬に愛されてしまっては、奴隷と割り切ることができず、使命を果たす妨げになりそうで。

完全にネタバレですが、霞乃江は根っこはいい子なのです。霞乃江の前世(流羅)は典型的な聖女そのものでしたし。

 

最後に炬の声を聴いて、感動する間も絶望する間もなく、ほぼ精神崩壊した雪に殺されてしまいます。

 

 

 

【第二十九話「恩寵」】

わたしが、この話を書き進めるにあたって、モチベーションとなっていた回です。

死んだ霞乃江があの世に行く前に、黒神が会いに来てくれます。

封印されているのにどうやって会いに来たのかは、次回の解説で語ります。

書いてある通りなのであまり多くは語りませんが、ここでの黒神が、真の黒神です。

金色の螺旋や偽王の骸に出ている黒神とは違います。

なぜ別人のようなのかは、まだ秘密です。

 

生まれ変わったら、いつも側にいるという約束を果たし、黒神は瑠璃といつも一緒にいるのです。

 

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十七話

【第二十七話「迷霧」】

炬を使って紗柄を殺させるのに失敗した霞乃江は、最後の手段をとります。

それは、紗柄に雪を殺させることでした。

 

妖王は、紗柄か雪のどちらか一人が死ねばいいと言っていました。

霞乃江は前世の記憶を思い出していくにつれ、紗柄の前世と黒神が恋仲であったのに気づき、紗柄を殺してしまった方が得策という妖王の助言に従おうとしました。

炬が負けてしまったので、もう一人の標的である雪を殺すしか無くなります。

霞乃江自身が雪を狙っても、戦う力を持たない霞乃江なので、紗柄に阻止されるのは必至。なので紗柄に眠る前世の記憶に語り掛け、紗柄に黒神と会いたいと思わせる作戦に出ます。

 

ところが、この戦法は霞乃江にとってつらいものでした。

紗柄に「黒神はおまえを愛していたし、おまえも黒神を愛していた」と言っていますが、これって霞乃江からしたら自分は蚊帳の外ですと認めてるようなもので。

一番やりたくないことなのですが、彼女は見返りなど求めていない。ただただ黒神と会いたいのです。けなげだなあ。

 

紗柄は紗柄で、これまでなら「雪を殺す」などという判断は天地がひっくり返ってもありえなかったことで、

速攻拒否して当然なのですが、なかなか拒絶できない。

彼女もまた、妖王の爆弾発言がきっかけで過去の記憶を思い出し、黒神へ特別な感情を抱き始めていたのです。

 

 

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十六話

【第二十六話「言霊」】

炬の過去回想を経て、紗柄と炬の戦いが再開されました。

 

今回の戦闘シーンは、短めにまとめようという書き手の意図がありました。

最近思うのですが、剣と剣の戦いって、結構一瞬で決まったりするもののような…

何度も切り結んだり技を掛け合ったりするのもいいのですが、今回は通常私が書く剣戟シーンよりはすぐに決着をつけさせました。

 

紗柄がとても強いですよね。霞乃江ですら、炬は紗柄に勝てないと思っていました。

炬も強いですが、経験の差は歴然です。妖相手に現役で戦っている紗柄と、霞乃江の命で必要な時だけ戦う炬。炬の腕は鈍っててもおかしくないですね。

 

くずれおちた炬に対し、霞乃江は「わたしを憎んでたよね?」と確認します。炬ははっきり答えませんでしたが…

この時は、答えていたのですが、そして霞乃江もその答えを理解していたのですが、信じなかったのです。

ここは最終話までひっぱります。

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十三話〜第二十五話

【第二十三話「魔剣」】

炬と紗柄の戦いが始まりました。

神巫女でありながら、剣で戦う術を身につけられなかった霞乃江は、自分の剣を炬に持たせて戦わせています。

長年霞乃江が房中術で黒の力を移しているので、紗柄にも匹敵する神力を持っています。

 

炬は二十代前半くらいの青年で、霞乃江の従者です。

ご存知の通り、王や氷姫を殺したり、火澄を殺したりしています。そして、霞乃江がご褒美に抱かせてあげたり、自分が人恋しい時に抱かせたり、性奴隷的な存在でもあります。

全身黒ずくめのビジュアルは、炬が霞乃江の好みに合わせたんだと思います。けなげだなあ。

「魔剣」というイメージにも合いそうです。

 

初めて仮面が取れて、素顔が明らかになりますが、読者の皆様の期待を裏切らない超絶イケメンです。

魔族なので、彫りの深い欧米人顔です。イケメンなのになぜ頑なに顔を隠していたのかというと、またなぜ声が出ないかというと、次話で明かされます。

 

…それにしても、炬のようなイケメンのことを「わたしの奴隷だ」とか一度でいいから言ってみたいな…

霞乃江みたいな凄絶美女だからこそさまになるんだよなあ。。

 

【第二十四話〜二十五話「半身」】

作者がずっと書きたかった炬の過去編です。

 

炬はもともと、wi〇h B的なキャラを出したくて作ったキャラでした。

双子のイケメン兄弟で片方は死んでいる、という設定はすぐに決まりました。片方が霞乃江に惑わされて頭がおかしくなり、片方がたまらず殺してしまう…それで、声が出なくなる、みたいな流れもすぐ決まりました。

お気づきの方がいらっしゃるかわかりませんが、「序章 白雪幽夢」の語りはこの炬視点で書いています。

ただ、明確に炬だけ、というわけでもなく、紗柄と雪にも当てはまる感じでもあります。

 

本文中にある通り、彼らは魔族の王子です。「偽王の骸」を読んでくださった方はすぐにピンときたでしょう。あの残酷極まりない魔王選び大会の犠牲者なのです。髪の色が「黄昏色」でわかるように、樹莉や荐夕、豹貴の祖先です。とくに荐夕の父・染王

(樹莉たちの祖父)も黄昏色の髪でしたので、やっぱり繋がっています。

 

炬自身は王になれる素質があったのですが、弟の晄は精神薄弱で、まず試練で生き残れない…ということで、炬は王位を捨てて弟と逃げだします。

弟のために全てを捨ててからも、いろいろ苦労する炬。高貴な身分だったのに、盗みをやったり殺しをしたり、落ちるところまで落ちます。そうこうするうちに晄はおかしくなり、どうしようもなくなってたところに、霞乃江に会います。

 

霞乃江に拾われ、一緒に暮らし始めますが、歳頃の少年には酷い環境でした。

まず、晟凱以外の男が屋敷にほぼいません。晟凱は霞乃江の父親と聞いているのに、朝から晩まで人前で娘と盛っています。炬は真面目なので、自分と晄の生活を守るために、煩悩を抑えるのに必死です。すぐそばに霞乃江みたいな美少女がいたら、たまらなかったでしょう。

 

ところが、その晄と霞乃江は、とっくに身体の関係になっていました。晄はここに来るまで女性経験もなかったのに、霞乃江を手に入れて調子にのってしまったんですな。※ちなみに炬は魔界で経験済なイメージ。初回で霞乃江失神させてるし……

 

霞乃江が晄を選んだなら、晟凱とするよりはマシかな…と我慢していた炬ですが、晄の自慢話と変貌っぷりに耐えられなくなります。

 

ある夜、真っ最中に晄を殺し、霞乃江を奪います。霞乃江は計画通り!とばかりにそのまま炬といたしています。

炬がコトを終えて冷静になってみると、自分のしたことが恐ろしくなって発狂し、喉をつぶして顔を切り刻もうとします。

理由はこのあたり。

・自分と同じ声と顔の晄を殺したことを思い出すから。

・他人に晄と同じ顔を見られたくないから(晄が存在していたことを意識させたくないから)。

・霞乃江を抱いているとき、晄と霞乃江がしている光景を思い出してしまうから。

 

そこを霞乃江が止めて、炬は本当の意味で霞乃江の奴隷になったのです。

 

全ては霞乃江の策略で、晄を誘って炬と仲違いさせたのも霞乃江。最初から精神的にも肉体的にも強い炬を狙っていた。作者はそのつもりで書きました。

でも、違う見方もできると思います。本当は霞乃江が晄を誘ったのではなく、最初は晄に無理やりされたのかもしれませんよね。そこはご想像にお任せします…

 

大切なのは、なぜ炬が晄を殺したのか。

・晄が霞乃江との情事に夢中で別人になってしまって、取り戻すには殺すしかなかった。

・尽くしてきたのに、恩知らずの晄が許せなくなった。

・霞乃江を抱きたかったので、晄が邪魔になった。

・霞乃江が他の男とむやみやたらに寝ないように、自分が専属奴隷になるため。

 

いろいろありますが、正解は4つ目と1つ目。

霞乃江は3つ目だと思っています。自分は炬に心から愛されないと思い込んでいるから。

でも真実は、本文最後にある通りです。炬は霞乃江を心から愛していたんです。

 

霞乃江の二面性(天女の顔と娼婦の顔)に気づき、娼婦の顔は自分を守るためのものだと知っていた。

本当は愛している人(黒神)がいると知ってしまった。

そんな霞乃江を守りたい想いを胸に秘めて、霞乃江にも伝えられず(霞乃江には好きな人がいるから声が出せても伝えられない)、歪んだ関係のままでいるのです。

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第二十話〜第二十二話

【第二十話「誓言」】
冒頭の「また、お会いしましょう。次の世で」という誰か(=紗柄の前世の巫女が正解)の誓いと、紗柄が妖王に「貴様とは関わらない」と宣言している二つを表したサブタイトルです。

 

・冒頭の誰かの誓い
「偽王」を読んでくださってる方で、「三十二.償い【1】」の冒頭の文章を思い出してくださった方がもしいたら、神のように崇めます…(いらっしゃらないですよね)
これは紗柄の前世(正確には前世の前世)の巫女の心の声を表しています。
この記憶を、紗柄はだんだん思い出していくのです。自分はかつて、誰を守りたかったのか。

 

・妖王がやりたかったこと
おおむね、この回で紗柄が見抜いている通りです。
妖王はもともとは前・天帝の息子で神様だったのですが、継母(天帝の正妻)に嫌われて神格を奪われ、異形の姿にされて下界に落とされました。
人にも魔族にもなれないので、寂しすぎて自分と同じような存在を増やすために、いろんな人や魔族に子を産ませて「妖」という種族が生まれました。
それでも虚しさは消えなくて、人は人でも人とは違う「神巫女」たちに目を付けます。
紗柄や霞乃江の前世(500年前の、二人目の巫女)の頃から干渉し始め、紗柄と霞乃江の時には二人が幼いころから近付き、弄びます。
紗柄はまだ幼く準備もできていないのに開光させられて「鬼」になりかけますし、霞乃江も御覧の通りです。
そうやって、自分と同じような中途半端な存在を作り出し、仲間意識を持ちたかったんですね。

 

また、妖王は紗柄に自分を憎ませて戦うよう仕向けて、戦いそのものを楽しもうとしていた面もあります。
兄である天帝(聖龍)の意に背くことをして、気を引きたかった面もあります。この先のネタバレですが、妖王が今回やろうとしていることは、黒神の意にも反していますので、彼を怒らせようとしたという理由もあります。
兄二人の怒りを買い、鉄槌をくらうことになろうが、それならそれでよかったといいますか。かまってちゃんですね。

 

この回での妖王はなんだかイライラしていますが、それは雪のせいです。雪という存在が現れ、せっかく鬼にした紗柄が人に戻ってしまったので、興ざめしていたのです。
親兄弟を殺すよう仕向けたのが自分、というのを告げるのは、紗柄の目を雪から自分に向けさせるという点で、妖王にとっては最後の切り札でした。
この頃にはなんでもありで、霞乃江に手を貸して雪をさらったのにもかかわらず、「自分と戦って勝ったら雪を助けてやる」とまで言ってます。彼には信念も何も無いのです。ただ紗柄に構ってほしいだけ。

 

紗柄はそんな妖王の内面を見抜き、「私はおまえにかかわらない」と跳ね付けているのです。
幼いころからあれだけ自分を憎むよう仕向けたというのに、また無視されてしまいました。
「そうか」と言ってあっさり引いたとみせかけて、がまんならなくなった妖王は爆弾を投入します。霞乃江の「黒の気」を感じ始めて前世を思い出しつつあった紗柄に、「本当に守りたいのは誰か?」という言葉を投げかけます。
これをきっかけに、紗柄は前世の自分をほぼ完全に思い出してしまうのです。
ここから紗柄は、前世の誓いを守るか、雪を守るか、という選択で揺れ始めます。

 

 

 

【第二十一話「偽物」】
冒頭の文は、紗柄の深層心理です。

 

あと最後の霞乃江のセリフ「会いたかったぞ」は、瑠璃が琅華山で気絶している麗蘭と再会した時のセリフと同じなのですが、気付いた方いらっしゃいますかね?
もしいらしたら感謝しまくりです。

 

・雪のすごさ
妖王の部下にさらわれ、霞乃江の元まで連れてこられた雪。
男を誘惑することにかけては無双の霞乃江が、雪を引き入れようと惑わします。ところが雪には効果がないどころか、敵意を抱かれます。

 

本文中でも説明していますが、霞乃江の誘惑術は完全無欠ではありません。効果があるのは「酷く傷ついた」相手です。雪の場合、傷ついてはいるのですが、正義感や憎しみの方が強く、哀しみを上回っていた。だから屈しなかったのです。
霞乃江が氷姫と火澄の髑髏を見せつけたのも、雪を傷つけて精神ダメージを食らわせ、誘惑しようとした理由からです。火澄の例がある通り、哀しみ>憎しみなら憎しみの発端が自分であっても、自分の虜にすることができますし。

 

ですが、雪は怯むどころか怒りを強めました。雪は気弱に見えて、実は誰よりも気性が激しい面を内に秘めている。だから火澄や紗柄に逃げてと言われても逃げずにここまで来たし、地影の人柱となるに足る「王に伍する徳」を有すると見なされていました。
実は、雪はすごいんです。本作ラストでも、そのすごさがわかるエピソードを書いていたりします。
(あと、雪が童貞だからという理由もあります。女性の身体を知らないことが武器になったというか)

 

ちなみに、「金色の螺旋」で瑠璃が誘惑しようとしてできなかったのは青竜と燈雅でした(緑鷹は誘惑されてます)。雪の徳はあの二人と同レベル、もしくはそれ以上といっても過言ではありません。霞乃江の方が誘惑術に長けてますので。

 

・霞乃江の動機
このセリフに、集約されてたりします。

 

「此の王子が死ねば、あの女はどれ程嘆くだろうか。悲しみの余り気が狂れるだろうか。或いは今生を悲観し、凡て思い出すであろうか――わたしのように」

 

霞乃江は自分の人生を悲観しています。だから黒神を狂信的に求めてしまう。自分もそうなので、紗柄もそうなるだろうと思い込んでいます。
この部分が、ラストにかけて重要になってきます。

 

 

 

【第二十二話「心戦」】
冒頭の文、「荒国に蘭」の「第二章 一.初めての友」の冒頭を意識したのですが、似てる感じだ〜と気づかれた方いますか? これはいらっしゃらないですよね…

 

・霞乃江→紗柄の心理攻撃
「結局おまえは光龍なんだ」と。前世のしがらみからは逃れられないんだ、と。これは、この後の伏線でもあります。霞乃江が切り札を使うための準備なのです。
ただこの時点では、紗柄は全くといっていい程こたえていませんね。

 

・紗柄、昔の記憶に翻弄される。
重要なのがこの場面です。

 

――「彼の方」が、左様なことを望む訳が無い。
 思わず右手で額を押さえ、霞乃江から目を逸らした。錯綜する記憶に戸惑い、敵を前に迷いを隠せなく為っていた。

 

「彼の方」とは、黒神のことですね。
今作では黒神が封じられて不在ということもあって、紗柄が彼を毛嫌いしているシーンはないのですが、悪い奴だとは思っています。この世界の人々にとって、「黒神=悪」は絶対的な方程式だからです。
にも拘わらず、「左様な(酷い)ことを(黒神が)望む訳が無い」と言っています。これは、前世の記憶のなせる業に他なりません。
それで紗柄は戸惑っているのです。
 

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第十九話

【第十九話「破綻」】

不穏なタイトルですが。

紗柄が雪に対して謎の違和感を覚え始め、それを感じ取った雪とのすれ違いが生じてゆく話です。

 

前半は、わりといいんです。少しだけ己の過去を明かした紗柄に、雪がかけた言葉は、紗柄が長年ずっと誰かに言ってもらいたい言葉でした。紗柄のままでいいんだよということ。親にもかけてもらえなかった言葉を、やっと雪がくれたのです。感無量です。

ただ、それも「私がどんな罪を犯したか知らないから言えるのだ」と素直に受け取れない。自己肯定感の低い紗柄には、雪が眩し過ぎて心を開けないんですな。

ちなみに、過去を語った紗柄ですが、親兄弟を手にかけたとはさすがに言えませんでした。そのあたり、彼女の傷の深さを物語ってます。

雪は雪で、紗柄が身構えてるのを見て、自分にはどうしようもない壁を、紗柄との間に感じてしまいます。

そして、その壁が崩れようもないのは、紗柄の記憶のせいでもあります。麗蘭もそうだったのですが、天陽に触れるとか、黒神や黒巫女の存在を感じた時など、ふとしたきっかけで前世や記憶が甦ります。霞乃江に近づくにつれて、前世のことを色々と思い出し始め、「私が昔から守りたかったのは、雪ではない」という本能レベルの考えから逃れられなくなります。本人も雪も、そんな事情は知る由もありません。

 

紗柄と雪は(とくに雪→紗柄)確かに惹かれあってはいますが、このままくっつくことは無いのでしょうか…?

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第十八話

【第十八話「純愛」】

・晟凱の最期

王や重臣たち、氷姫や火澄と、地影の生贄になりそうな人をみんな殺し、紗柄や雪を追い出して、晟凱は用済みになりました。

そもそも晟凱を焚き付けて謀反を起こさせたのは、晟凱の野望であった王位継承を実現させかけて、寸前で殺すという、一番酷な「復讐」を遂げる目的もありました。やはり霞乃江は、自分を虐げてきた義父を心底憎んでいたのです。

 

十歳に満たないころから虐待されてきた霞乃江ですが、ある時から、同衾する度に黒の気を移し始めました。

金色や偽王では黒神がやってたやつですね。霞乃江にとっての得意技なんですが、晟凱に対しては丁度いい頃合いに死ぬよう調整してたみたいです。

ちなみにこの先出てきますが、炬に対してもこれをやってます。こちらは致死量ではないですが。

 

・晟凱の純愛

今回のサブタイトルには、晟凱と霞乃江のそれぞれの純愛の意味を込めてます。

まずは晟凱→霞乃江。晟凱は生粋のサディストで、気に入った美女を痛めつける性癖がありました。霞乃江も、最初はその犠牲者に過ぎなかったのですが、妖王に調教手解きされて、晟凱を誘惑してやがて心酔させてしまいました。

たくさん囲っていた女たちも手放して、霞乃江だけを愛妾のように扱っていました。途中で自分の実の娘ではないと気付いてますから、そこからは完全に恋人扱いです。

最後、霞乃江の正体を知り、霞乃江のせいで死んでいくときも、(晟凱を殺せて)嬉しげな彼女を見て、幸せな気分に浸っています。好きな人の幸せそうな姿を眺めながら死ねるなんて、最高に素敵ですよね、というわけです。

晟凱は、確かに霞乃江を愛していたのです。←ここポイント

 

・霞乃江の純愛

むろん、黒神への愛情です。

主を愛しているからこそ、晟凱に何をされても凛として誇り高くいられる。彼女の気高さはこの想いが作り出しています。

最後の「後は貴方をお迎えするだけ」ですが、俗世でやりたかったこと(氷姫への逆恨み→報復、晟凱への報復)をすべて終えたということを表しています。来るところまで来てしまった…という霞乃江の覚悟を示唆しています。

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第十七話

【第十七話「渇仰」】

・霞乃江の迷い

霞乃江はもともと、黒神を復活させたら一身に寵愛を受けられると信じてました。

氷姫を殺して自分の力が強まるとともに、前世の記憶がより鮮明になると、黒神が「女性として」大切にしていたのは自分ではなかったことを思い出します。

唯一の拠り所であった黒神が、目覚めたら自分ではなく紗柄を求めるかもしれない、という恐れに翻弄されるようになります。

 

思いっきり本編のネタバレしてますが、黒神は紗柄(麗蘭)の前世の巫女と特別な仲だったようです。

金色や偽王からそれっぽい要素は出してましたので、通しで読んでくださってる方はほとんどお気づきかと思いますが。

このネタバレ要素こそが、凍える夢の後半での軸になってきます。

 

・妖王と霞乃江

弱った霞乃江に、余計なことを吹き込みに来る妖王。

黒神と紗柄を再会させないために、最後の生贄として紗柄を殺せとささやきます。

また、「炬はわたしのことを愛していません」という霞乃江に対し、「そうだったな」と答えているのですが、これが大事な伏線だったりします…悪意をもっての「そうだったな」です。

 

霞乃江を慰めるふりをしながら彼女の反応を楽しんでいる妖王ですが、彼女に貴方は優しいと言われて戸惑います。霞乃江自身、嫌味ではなくて本心から言っています。たとえ自分を弄ぶのが目的でも、妖王は自分に戦い方を教えてくれ、寂しいときは側にいてくれた。その意味で優しいと表しているのです。

 

・妖王が語る黒神

妖王もまた、黒神が「誰よりも優しい」と言っています。

千年前の黒神は、一体どんな奴だったのでしょうか。この先にも新たな描写が出てきます。

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【各話解説(ネタバレ有)】「凍える夢」第十五話〜第十六話

【第十五話「宿業」】

 

・霞乃江(瑠璃)にかけられた呪い

 

 天地が逆さまに為っても己を愛さぬ男のために、

 己に愛をくれる男たちを喰い殺し続ける。

 

これが霞乃江の宿命なのですが…

この文章、どこかで見覚えのある方がいらっしゃいましたら泣いて喜びます。「金色の螺旋」十章で、珠玉が瑠璃に放った最後の言葉がこれなんですよ。

霞乃江はその美貌で男たちを惑わし、女たちから男を奪う。いろんな男と関係を持ち、愛されますが、黒神以外を愛することはできない。そういう星の下に生まれたのです。とはいえ本人次第で、愛し合える人を見つけられるのに、呪いにかかっているかのようにここから抜け出せない。

妖王が言葉巧みに誘導したせいで、晟凱の性的虐待すら「自分の魔性のせい」と信じ込んでしまいました。

「自分に近付いてくる男はみんな体目当て」と思い込んで心から愛されていると感じられないのです。ゆえにただ黒神だけが、自分を受け入れてくれると妄信するに至る。

……書いててかわいそうになってきた。

 

・妖王の手解き

霞乃江はもともと床上手でもビッチでもなかったのですが(むしろ苦痛でしかなかった)、妖王に調教手解きされてそっち方面に目覚めます。

エロの権化である妖王から直接叩き込まれたので、瑠璃たんより技術は上です。男を誘惑する術にかけては最強になり、火澄くんに至っては一目見ただけで骨抜きにしています。

この先もそういう描写が多いので、エッチ好きに見えると思いますが、実はそういうわけではないです(一方で瑠璃たんは素で好きです)。自分の心を守るために、好きだと思い込んでるだけで。

瑠璃とは異なり、霞乃江には剣で戦う力がありません。その代わりに強い男を操って戦わせます。そういう戦い方を教えてくれたという意味で、妖王には感謝しているようです。

妖王としては、異母兄の女である霞乃江を自分好みに染めていく愉しさがあったと思います。ほぼそれだけです。ゲスいな。。

 

この回は、全体的に妖王のセリフが気に入ってますが、とくに好きなのはこれです。

 

「男たちはおまえに平伏し懇願する。凡ゆる富を、享楽を授けて、おまえの愛を得ようとする」

「女たちはおまえの有する全てに羨望を抱き、愛を奪われ、おまえを憎みながら死ぬだろう」

 

 

【第十六話「劫火」】

 

・超重要回

霞乃江が生きる意味を語る場面。相当前から書いていた思い入れのあるシーンです。

重要なのを示したくて、冒頭にはメインタイトルと同じ言葉を配置しました。

今生では会ってもいない黒神に想いをよせ、(ほとんど妄想で)愛を語る場面なので、書きながら霞乃江たん頭やばいな、と思っていました。。

地影を使って王や重臣、氷姫、火澄を殺し、力が高まるとともに前世の記憶も断片的に思い出してきています。それでも、まだ黒神には会っていないんですよ。現実世界に失望し、どこまでも闇龍であろうとする。そんな霞乃江の中二病的一面を押し出しました。

 

・氷姫への仕打ち

氷姫を殺して首を切り取った霞乃江ですが、やたら姫に恨みを持っている様子。

霞乃江は晟凱の実の娘ではないので、本当の王族ではないとみなしています。本物の王女である氷姫が何不自由なく幸せに暮らしていることに、酷く嫉妬心を抱いています。

そのうえ火澄が好い男だったので、寝取って殺して現場を姫(の首)に見せつけます。

光龍である紗柄でさえ、この時はアウトオブ眼中なのに、とにかく姫が嫌いなんです。

その姫(の首)を相手に、はたから見ればちょっと異常で一方的な会話(というより黒神への告白)を繰り広げるのです。

 

・霞乃江の見ている黒神

 

「あの、光輝く微笑みを取り戻すためなら。あの、優しい御声を取り返すためなら。あの、慈愛に満ちた黒曜石の瞳に、今一度映されるためなら」

 

霞乃江はこう、黒神を語っていますが、本編を読んで復活後の彼を知っている方は、違和感があったんじゃないかと思います。

優しいとか慈愛とか、彼には無縁に見えますよね?

ここが伏線というか、重要ポイントです。

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